春から長崎で暮らし始めた、あるいは転勤でこの秋に引っ越してきた。そんな人が最初に気づくのは、街の景色に路面電車が溶け込んでいることです。駅前の通りを、電車がゆっくりと行き交う風景は、この街の日常そのものです。けれども、使い慣れていない人にとっては「どこで乗り、どこで降り、いくら払うのか」がすぐには分かりません。

先にお伝えすると、長崎の路面電車は、仕組みさえ分かれば、市内でもっとも気軽で安上がりな移動手段になります。乗車区間にかかわらず運賃は大人150円で、どこまで乗っても同じです。この記事では、乗り方、料金、一日乗車券の損得、よく行く場所の降り場、そして知っておくと得をする割引まで、順を追って整理します。内容は2026年10月31日時点のものです。長崎生まれの方には当たり前の話も多いと思いますが、新しく来た家族や同僚に教えるときに、ぜひ活用してください。

運賃

乗車区間にかかわらず、大人150円・小児80円の均一運賃です。

一日乗車券

大人600円・小児300円で、路面電車の全線が乗り放題になります。

乗り方

中ドアか後ドアから乗り、前ドアから降りるのが基本です。

こども無料の日

毎月第三日曜日は、小学生以下の運賃が全線で無料です。

初めての人がつまずきやすい四つの点

便利な乗りものですが、初めて利用するときには戸惑う場面があります。あらかじめ知っておけば避けられるものばかりですので、先に挙げておきます。

乗り方が独特で、降りるときに慌てやすい

路面電車は、中ドアか後ドアから乗り、運転席の横にある前ドアから降ります。降りるときは、前ドアで運賃の支払いやカードのタッチが必要になります。停留場に着いてから財布やカードを探すと、後ろの人を待たせてしまいます。降りる停留場が近づく前に、支払いの準備をしておくと慌てずに済みます。

現金は「おつりが出ない」

現金で払うときは、運賃箱に運賃をそのまま入れます。おつりは出ません。小銭がないまま乗ると、走行中の車内で両替をすることになり、落ち着かない思いをします。両替機は車内の前後にありますが、乗る前に150円を用意しておくほうが確実です。

路線の全体像がつかみにくい

長崎の路面電車には複数の系統があり、同じ線路を共有しながら行き先が分かれます。目的地の停留場に、どの系統で行けるのかを知らないまま乗ると、別の方向の電車に乗ってしまうことがあります。とくに、4号系統は当面の間、運行を休止していると案内されています。古い路線図だけを頼りにすると、実際の運行とずれるおそれがあります。

割引の条件を知らないと損をする

乗換えの割引や、短距離のチョイ乗り割引、一日乗車券は、どれも条件があります。条件を知らずにいると、本来は無料になるはずの2回目の運賃を払ってしまったり、一日乗車券を買ったのに元が取れなかったりします。

これらの戸惑いは、路面電車そのものの欠点というより、初めての人向けの情報が少ないことから生まれるものです。次の章から、一つずつ解消していきます。

一世紀をこえて走り続ける、長崎の足

長崎電気軌道が路面電車の運行を始めたのは、1915年(大正4年)11月16日です。会社は2015年に開業100周年を迎え、記念して『長崎電気軌道100年史』を刊行し、電子版を公開しています。長崎の街を、100年以上にわたって走り続けてきた乗りものです。

この歴史には、重い出来事も刻まれています。長崎電気軌道の社史によると、戦時中の被害は、1945年7月末の空襲と、8月9日の原子爆弾投下の2回でした。原爆では変電所や車庫などが失われ、従業員の死者は110名以上にのぼったと記されています。車両も、在籍していた56両のうち16両を失いました。

それでも復旧は早く進みました。焼け残った車両を整備し、焼失した車両の台車や電気機器を再利用して車体を新しくつくり、最初の1両は1947年(昭和22年)9月に完成しています。1949年(昭和24年)5月までに10両が復旧しました。

さらに、1982年(昭和57年)7月の長崎大水害でも、全線がいったん運休しました。それでも3日後には一部区間で営業を再開し、すべての系統が平常のダイヤに戻ったのは9月10日です。

つまり、この電車は、原爆や水害をくぐり抜けながら、市民の暮らしを支えてきた交通機関です。平和公園や原爆資料館の最寄りに停留場があり、街の記憶をたどる日にも、この電車が寄り添っています。

三つの系統を頭に入れておく

先に、走っている系統の全体像をつかんでおくと、迷いが減ります。長崎電気軌道の路線案内では、現在運行している系統は次のとおりです。

系統 区間 昼間の運行間隔(9時〜19時59分)
1号系統 赤迫〜崇福寺 約7分
3号系統 赤迫〜蛍茶屋 約10分
5号系統 蛍茶屋〜石橋 約11分
4号系統 運行を休止(当面の間) —

よく行く場所で言えば、長崎駅前から平和公園や原爆資料館へは1号・3号、グラバー園や大浦天主堂へは5号が行きます。

運行間隔は目安であり、案内にも、時刻は交通事情により遅れることがあると書かれています。時間に余裕を持った計画にすると安心です。バリアフリーに対応した車両の運行表も、系統ごとに公開されています。

均一150円という分かりやすさ

では、料金の仕組みを確認しましょう。長崎の路面電車は、乗る区間にかかわらず運賃が同じ、均一制です。運賃案内には、次のように記載されています。

区分 運賃
大人(中学生以上) 150円
小児(小学生) 80円
乳児(1歳未満) 無料
幼児 同伴者1人につき1名まで無料(2人目以降は小児運賃80円)

幼児が1人で乗る場合は、小児運賃の80円が必要です。また、大人が1人で幼児を2人連れている場合は、2人目から小児運賃になります。

均一制のよいところは、運賃の計算を考えずに済むことです。一つ先の停留場まででも、終点まででも150円です。逆に言えば、一駅だけ乗る場合は割高に感じられます。その短い区間のために用意されているのが、次に紹介する割引です。

一駅二駅なら「チョイ乗り割引」

交通系ICカードやクレジットカードのタッチ乗車などのキャッシュレスで支払い、2区間内の乗車に限って、大人は110円、小児は60円になります。短い距離を乗り降りしながら街を巡るときには、これだけで負担が小さくなります。

乗り換えは「2回目が無料」になることがある

複数の系統を乗り継ぐときには、乗換え割引があります。交通系ICカードかクレジットカードのタッチ乗車で、割引が有効な停留場から乗り換えると、2回目の運賃が無料になります。

ただし、すべての乗換えが対象ではありません。経路によって乗換えが有効な停留場が異なり、1回目に降りてから2回目に乗るまでが30分を超えると適用されないとされています。昔の乗換え券は廃止されており、現在はキャッシュレスで乗ることが前提です。

一日乗車券は何回乗れば元が取れるのか

休日のおでかけで使う人にとって気になるのが、一日乗車券の損得です。大人は600円、小児は300円で、路面電車の全線が一日乗り放題になります。

大人の場合、均一運賃は150円ですから、4回乗ると600円になります。つまり、1日に4回以上乗る予定があれば、一日乗車券のほうが得になります。小児も、80円を4回乗ると320円になり、300円を上回ります。

たとえば、長崎駅前から平和公園へ行き、そこから新地中華街へ向かい、さらに大浦天主堂へ足を延ばして、最後にホテルへ戻る、という流れなら、4回に届きます。おでかけの途中で何度も乗り降りする日は、迷わず一日乗車券が有利です。反対に、1日に2、3回しか乗らない日は、現金やICカードで払うほうが安く済みます。

買い方と使い方の注意

一日乗車券は、車内では売っていません。観光案内所、沿線のホテルのフロント、長崎電気軌道の営業所などで事前に購入します。スマートフォンで使える「モバイル一日乗車券」も用意されています。

使うときは、降りるときに運転士へ日付の部分を見せます。1人につき1枚が必要で、複数の人で使い回すことはできません。間違えて購入した場合は、利用日の前日までに営業所で払い戻しができ、手数料は1枚につき50円です。

宿泊者以外が沿線のホテルで購入するときは、在庫の都合があるため、事前にホテルへ確認が必要とされています。また、障がい者割引は普通の運賃にのみ適用され、一日乗車券には適用されません。

乗り方を順番に確認する

次に、実際に乗るときの流れを確認します。長崎電気軌道の案内をもとに、順番に整理します。

  1. 乗る:中ドアか後ドアから乗ります。整理券はありません。交通系ICカードやクレジットカードを使う場合は、乗車時にタッチします。
  2. 降りる準備:降りる停留場が近づいたら、降車ボタンを押します。
  3. 降りる:前ドアから降ります。ICカードやクレジットカードは、運転席の横にある降車用のリーダーにタッチします。現金の場合は、運賃箱に150円を入れます。

支払いに使えるのは、全国相互利用の交通系ICカード、タッチ決済に対応したクレジットカード、現金の三つです。クレジットカードは、タッチ決済のマークが付いた国際ブランドのカードが対象です。

なお、ICカードなどを使う小学生以下の方は、リーダーに触れないよう案内されています。

毎月第三日曜日は「路面電車こども無料の日」で、全線で小学生以下の運賃が無料になります。この日に子ども連れで出かけるなら、小児用の一日乗車券を買う必要はありません。大人の分だけ用意すれば足ります。

よく行く場所と、いちばん近い停留場

最後に、行き先ごとの降り場を確認しましょう。長崎電気軌道の「主要観光地 最寄停留場」の案内から、暮らしのなかでも訪れる機会の多い場所を抜き出して整理しました。

行き先 最寄りの停留場 利用できる系統
長崎駅・出島メッセ長崎 長崎駅前 1号・3号
日本二十六聖人殉教地 長崎駅前 1号・3号
出島・長崎県美術館 出島 1号
新地中華街 新地中華街 1号・5号
眼鏡橋 市役所、めがね橋 市役所は3号・4号・5号、めがね橋は4号・5号
長崎歴史文化博物館 桜町 3号
グラバー園・大浦天主堂 大浦天主堂 5号
オランダ坂 メディカルセンター 5号
原爆資料館 原爆資料館 1号・3号
平和公園・原爆落下中心地・浦上天主堂 平和公園 1号・3号
孔子廟・中国歴代博物館 石橋 5号

同じ停留場でも系統によって行き先が違うので、乗る前に、電車に表示された行き先を確かめてください。昼間(9時から19時59分)の運行間隔は、案内では、1号系統が約7分、3号系統が約10分、5号系統が約11分とされています。

路面電車に任せる一日のすすめ方

ここまでの情報をまとめて、路面電車だけで巡る一日の例を考えてみます。

午前は、長崎駅前から出島へ向かいます。出島は1号系統で行けるため、乗換えの必要はありません。昼前に出島を出て、新地中華街で食事をとります。ここまでで2回乗車です。

午後は、新地中華街から5号系統に乗り、大浦天主堂へ向かいます。坂の上のグラバー園まで見て回ったあと、再び電車で市街地に戻ります。これで4回になり、一日乗車券の元が取れます。

夕方は、長崎駅前から原爆資料館、平和公園へ。時間の余裕があれば、ここで静かに過ごすのもよいでしょう。移動の合間に、窓から街の景色や坂道を眺められるのも、路面電車ならではの楽しみです。

迷ったら、まず一日乗車券と現金の用意から

長崎の路面電車は、乗り方に少しだけ慣れが必要ですが、仕組みは明快です。運賃は大人150円の均一で、一日乗車券は600円、4回乗れば元が取れます。乗るのは中ドアか後ドア、降りるのは前ドアです。現金はおつりが出ないので、150円を事前に用意しておきます。

1日に何度も乗り降りするおでかけの日は、一日乗車券を前日までに買っておくと安心です。短い距離だけ乗るなら、キャッシュレスのチョイ乗り割引が役に立ちます。毎月第三日曜日に子ども連れで出かけるなら、小学生以下は無料です。

100年以上、この街の人々を運び続けてきた電車に身をゆだねると、長崎の坂や港の景色が、歩くときとは違う速度で目に入ってきます。新しく長崎に来た人は、車や徒歩に頼る前に、まず近くの停留場に立ってみてください。

なお、運賃や割引、運行の状況は変更されることがあります。最終的な内容は、乗車前に現地の案内や車内の表示で確認してください。