旧長崎英国領事館が11年ぶりに開館|同じ居留地の洋館4施設は閉館へ、いま大浦・南山手で起きていること
大浦の海沿いの坂道を上ると、煉瓦造りの大きな洋館が見えてきます。旧長崎英国領事館です。長く工事用の囲いに覆われていたため、「いつ中に入れるようになるのか」と気にしていた方も多いでしょう。その建物が、2026年1月30日に、約11年ぶりに開館しました。
ところが、同じ旧居留地のなかでは、まったく逆の動きも進んでいます。東山手や南山手にある市有の洋館のうち、3施設は2026年3月31日に閉館し、残る1施設も2027年3月31日に閉館する予定です。開館する建物と、閉館する建物。ひとつの街の動きとして、あわせて見ておくと、居留地の景色がこれからどう変わっていくのかが見えてきます。この記事では、2026年11月1日時点の情報で、どちらも整理します。
開館
旧長崎英国領事館が、約11年の保存修理を終えて、2026年1月30日に開館しました。
入館料
一般700円、小・中・高校生350円です。2階の美術館と共通です。
時間
9時から17時まで(最終入場は16時30分)。月曜と年末年始は休館です。
閉館
東山手・南山手の市有の洋館のうち、3施設は2026年3月31日に閉館しました。
見ておきたい建物が、なくなるわけではない。けれど
まず、気がかりな点から整理します。
3つの施設は、もう中に入れない
2026年3月31日をもって閉館したのは、次の3施設です。
| 施設 | 建物 |
|---|---|
| 古写真・埋蔵資料館 | 東山手洋風住宅群(D・E・F・G棟)の一部 |
| べっ甲工芸館 | 旧長崎税関下り松派出所(国の重要文化財) |
| 須加五々道美術館 | 南山手乙9番館 |
さらに、南山手レストハウス(南山手乙27番館)が、2027年3月31日に閉館する予定です。市民の休憩と、旧居留地の資料を見る場所として親しまれてきた施設で、今のところ、見学できる最後の1施設にあたります。
閉館のあと、何になるのかは分からない
長崎市は、グラバー園を除く市有の洋館について、「今後、民間事業者による新たな活用を行うため」と説明しています。閉館後は、建物内の備品の整理や、建物の修繕など、新しい活用に向けた準備を進める予定です。
ただ、どんな事業者が、どんな使い方をするのかについては、2026年11月1日時点で、公表されている内容は見当たりませんでした。今のところ、建物の行く先は「民間の活用」としか分かりません。
行き方にも、少し注意が必要
旧長崎英国領事館には、駐車場がありません。車で出かけるのは難しい場所です。そして、休館日が毎週月曜日(祝日は除く)と年末年始です。思い立って出かけても、閉まっている日があります。
では、そうした条件を踏まえても、旧英国領事館に足を運ぶ意味はあるのでしょうか。それは、この建物が歩んできた時間を知ると、よく分かります。
英国領事館は、居留地の「顔」だった
長崎に英国領事館が置かれたのは、1858年の修好通商条約のあとです。現在の建物は、在上海の英国政府の建築課にいたウィリアム・コーワンが設計し、1907年から1908年(明治40年から41年)にかけて建てられました。
建物は、煉瓦造りの2階建てです。1階と2階の正面と両側面の三方にベランダがあり、両端の外壁には丸窓が開いています。花崗岩を壁面やアーチに使い、正面を強く意識したデザインです。本館に加えて、附属屋、職員の住宅、門と塀など、敷地全体が建築当時の状態をよく保っています。設計図や仕様書も残っているそうです。1990年3月19日には、国の重要文化財に指定されています。文化庁の解説は、明治後半の洋風建築として貴重であるとともに、近代日本の外交史を伝える資料としても価値が高いとしています。
外観を見るときの注目点
もともとの使い方は、1階が事務室、2階が領事の住宅でした。建物の周囲をベランダがめぐり、正面の2階にはイオニア式の柱が立っています。左右対称で、正面を堂々と見せるつくりです。敷地は煉瓦塀と石塀に囲まれ、附属屋や職員の住宅も残っています。建物の中に入る前に、まず門の前で全体を眺めてみてください。領事館が「国を代表する場所」として設計されたことが、外観からも伝わってきます。
長崎市民にとっては「児童科学館」の建物でもある
英国領事館は、第二次世界大戦中に閉鎖されました。戦後の1955年(昭和30年)に長崎市が買い取り、その後は児童科学館として活用されてきました。理科の展示を見に出かけた記憶がある、という方もいるのではないでしょうか。領事の事務室と住居だった建物が、子どもたちの学びの場になっていたことは、長崎らしい歴史の重なりです。
建物は2007年から使用が止まり、その後、約11年にわたって保存修理の工事が行われました。工事のなかで、本館の内壁が、当初は緑や赤を基調にしていたことが分かりました。修理では、その色に合わせて塗り直されています。工事で見つかった当時の建築部材は、車庫に展示されています。
中に入ると見える、領事の仕事と英国の暮らし
内部は、2つの階で、まったく違う顔を見せます。
1階:領事館展示室
1階には、領事館の仕事と、居留地の歴史を紹介する展示室があります。領事の執務空間を再現した「領事事務室」では、領事の仕事をパネルで紹介しています。複数の部屋では、デジタルコンテンツを使って、領事館と外国人居留地の歴史を学べます。
食堂と応接間には、アンティークの家具が置かれ、当時の英国の暮らしと文化を感じられます。長崎市の担当者は、「長崎にいた領事の仕事を知って、存在を身近に感じてほしい」と話しています。
2階:野口彌太郎記念美術館
2階は、領事と家族の生活の場だった階です。ここは、洋画家の野口彌太郎の記念美術館として活用されています。戦後の長崎と、旧居留地を描いた絵画を中心に、昭和初期から晩年までの油彩画や水彩画など、約20点が展示されています。
異国の人々が暮らした部屋で、長崎の街を描いた絵画を眺める。建物と作品が同じ土地の記憶でつながっているところが、この美術館の面白さです。
洋館の街並みが、まるごと文化財になっている
旧居留地の洋館が閉館や活用の話題になる背景には、この一帯が、街並みごと守られている場所だという事情があります。
1858年の修好通商条約で、長崎には外国人の居留地が設けられました。居留地は、出島より南側の海岸を埋め立て、背後の丘陵を含めて造成されたもので、1860年(万延元年)から土地の貸し渡しが始まり、1899年(明治32年)に制度が廃止されるまで続きました。
その東山手と南山手は、いずれも1991年(平成3年)4月30日に、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。面積は、東山手が約7.5ヘクタール、南山手が約17.0ヘクタールです。石畳や石の溝も残っており、街並み全体が保存の対象です。
東山手洋風住宅群
閉館した古写真・埋蔵資料館が入っていた東山手洋風住宅群は、明治20年代の後半にまとめて建てられた7棟の洋館です。狭い敷地に計画的に建てられ、社宅や賃貸住宅だったと推定されています。内外の意匠は質素で、欄間などには中国風の意匠も見られます。このような住宅が群として残っている例は、全国的にも類がないと評価され、1989年(平成元年)9月4日に長崎市の有形文化財に指定されました。
べっ甲工芸館
べっ甲工芸館は、旧長崎税関下り松派出所の建物を使っていました。この建物は、国の重要文化財です。閉館した3施設のなかでは、唯一、国指定の文化財にあたります。文化財の建物を民間が活用する場合、保存と利用をどう両立させるのかが、これからの焦点になりそうです。
見学の優先順位を、こう考える
居留地一帯で、どこから回ればよいか迷ったときの考え方を、整理しておきます。
- 旧長崎英国領事館:開館したばかりで、内部が一新されています。まず優先したい場所です。
- 南山手レストハウス:2027年3月31日に閉館する予定です。見学できる最後の機会が決まっているため、年度内に訪れておきたい場所です。
- グラバー園:市民向けの無料の日が設けられています。日程を確かめて訪れる価値があります。
- すでに閉館した3施設:内部には入れませんが、建物の外観や街並みは、今も見ることができます。
入館料、時間、予約のこと
見学に必要な情報を整理します。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 所在地 | 長崎市大浦町1-37 |
| 開館時間 | 9時から17時まで(最終入場は16時30分) |
| 休館日 | 毎週月曜日(祝日は除く)、年末年始(12月29日から1月3日) |
| 入館料 | 一般700円、小・中・高校生350円 |
| 駐車場 | なし |
入館料は、2階の野口彌太郎記念美術館との共通料金です。入場に事前の予約が必要かどうかについては、案内には記載が見当たりませんでした。窓口で入館料を払って入る形と考えられますが、明記はされていません。
行き方
路面電車なら、「大浦海岸通」の停留場から歩いて3分です。バスなら、長崎駅前南口のバス停から30番か35番に乗り、約8分の「メディカルセンター」で降りて、徒歩2分です。
大浦天主堂やグラバー園の周辺と合わせて歩けるため、路面電車の一日乗車券を使った散策に向いています。路面電車の料金や乗り方は、路面電車ガイドで紹介しています。
市民には、うれしい「入園無料」の日もある
居留地の見どころのなかで、市有の洋館とは別に、いまも続いている施設に、グラバー園があります。グラバー園のお知らせには、「毎月第3日曜日×長崎市民入園料無料デー」という見出しが並んでいます。9月は毎日「長崎市民入園料無料月間」という案内も出ていました。
市民向けの無料の日は、年によって内容が変わる場合があります。詳しい条件は、見学の前に、最新のお知らせで確かめてください。それでも、市内に暮らす人にとって、観光地を気軽に訪れるきっかけが用意されている点は、心強いことです。
半日で回る、居留地の散歩道
旧居留地は、路面電車を降りてから坂を歩く場所です。一日乗車券を使った半日の散歩を考えてみます。
最初に、「大浦海岸通」で降りて、旧長崎英国領事館へ向かいます。見学の最終入場は16時30分ですので、午後に訪れる場合は、時間に余裕を持ちましょう。領事館の展示室と美術館を見て回るのに、小一時間はかかると見込んでおくと安心です。
そのあと、坂を上って、東山手や南山手の街並みを歩きます。閉館した洋館の外観や、残る石畳を眺めるだけでも、居留地の空気は伝わってきます。途中で、1893年に建てられた孔子廟まで足を延ばすこともできます。孔子廟へは、路面電車の「石橋」が最寄りです。
大浦天主堂の方面へ下りれば、路面電車の「大浦天主堂」が最寄りの停留場です。一日乗車券があれば、乗り降りの回数を気にせずに動けます。一日乗車券の損得は、乗る回数で決まります。
居留地の「いま」を、今のうちに見ておく
旧長崎英国領事館は、11年の修理を終えて、よみがえりました。一方で、旧居留地の市有の洋館は、民間の活用に向けて、閉館に向かっています。同じ街のなかで、守る動きと、使い方を変える動きが、同時に進んでいます。
残る南山手レストハウスは、2027年3月31日が閉館の予定です。建物がこれからどう使われるのか、まだ分かりません。見学できるうちに訪れておくと、将来、新しい形で生まれ変わった姿と比べる楽しみができます。
休みの日の午後、坂を上って、領事館の部屋に入ってみませんか。11年の工事のあとに現れたのは、100年以上前の暮らしの気配と、これからの居留地の姿を考えるきっかけでした。